2010年 6月号

2010年 6月号

 木村秋則さんというリンゴ農園のお百姓さんが、なんと無農薬、無肥料で「奇跡のリンゴ」を栽培されたのです。そのリンゴは切り口が茶色くならない、2年放置しておいても腐らないで枯れた状態でフルーティーないいにおいがするといいます。一口かじると、どんな高級なリンゴもかなわない甘さだそうです。
 リンゴは、ほかのどんな野菜や果物よりも害虫や病気にやられやすいため、無農薬での栽培は絶対に不可能といわれているのに、木村さんはその暴挙にチャレンジしたのです。大量の虫たちと闘っても闘っても、一つのリンゴもならず6年目にはとうとうリンゴの木そのものが枯れ始めます。収入はゼロ、子供の学費や税金もはらえない、雑草を食べ、車も売ってしまって片道2時間のリンゴ畑までの道のりを歩いて朝早くから夜おそくまで、がんばるのでした。馬鹿にされ村八分状態で、これ以上家族に迷惑をかけることはできないと死を決意し、死に場所を求めて山奥深くに入りこみ、もってきたロープを木に投げかけるとロープが山の斜面に落ちてしまい、ロープを取りに斜面を下りようとしたとき、月明かりにリンゴの木(実際はどんぐりの木だった)が目の前に立っているのが見え、「なぜこのリンゴは無肥料無農薬でこんなに立派なんだ」と思います。夢中で調べてみると手で掘れるくらい土がふかふかに柔らかい、そして掘れども掘れども土が温かいことに気づきます。それは微生物の力です。「これだ!!自分は木や葉や花のことばかりを見ていて根っこのこと、土の状態は見ていなかった。雑草は養分を奪ってしまう敵だと思って取り除いていたけれども、雑草があるから微生物が生息できるんだ」と気付いて、山奥まで入り込んだ目的もすっかり忘れて山を駆け下り、自分の畑の土は固くて冷たいのを確認します。それから畑に雑草をはやし、ついに翌年7年ぶりにリンゴの花が一面に咲きリンゴがなり、小さくて売れないけどそれはとてもおいしいものでした。それから3年で、やっと無農薬無肥料、甘くて腐らない生命力であふれたリンゴが出来たのです。そのリンゴでスープを作ったレストランは1年先まで予約が一杯だそうです。木村さんのリンゴは、ネットで売りだされると10分で売り切れるのです。
 いま私たちが口にする野菜や果物は生態系から切り離されたもので、たとえ無農薬であっても肥料をやり雑草を刈る為、土も自然な状態ではなく、根っこは短く生命力がないのです。大自然の中でそだった植物は生きる力が強く、根っこが地中深く伸びて養分や水を吸い上げます。その生命力をいただいたら人間も強い生命を培うことが出来るのですね。
 人間も植物と同じで、自然に反した競争社会、科学・物質万能主義は、一見どんなに便利良く豊かであっても、結局は行き詰まるのです。個人の人生も大自然のサイクルから離れると運気が落ちるのです。
 木村さんは「リンゴを育てたのはリンゴ自身であり自分はちょっと手助けしただけ」とおっしゃり、リンゴの木に感謝しておられ、とても謙虚です。そして自然栽培の野菜や果物が高価なものでなく普通の値で店頭に並べられる世の中を作るために、今、講演や農業指導に東奔西走、惜しげなく培った独自のノウハウを伝え、ギブの生き方をしていらっしゃいます。こんな方が存在する事に感動し感謝の涙があふれました。
ありがとうございます。

             

のさかれいこ